働き方改革で実務はどう変わる?「時間外労働の上限規制」編
働き方改革の中でも「時間外労働の上限規制」は罰則付きということもあり、どの企業も優先的に導入しなければいけない項目です。「時間外労働の上限規制」を導入した場合、これまでの労務と実務はどのように変わるのでしょうか。以下に実務上での対応方法などをまとめてみました。
「時間外労働の上限規制」とは?
日本のビジネスパーソンの残業や休日出勤などの「長時間労働」は、世界からも注目されるほどの社会問題で、政府も幾度となく議論を重ねてきました。長時間労働は、労働者の心身に負荷をかけ、突然死やうつ病などのリスクが増えるほか、仕事と家庭の両立の困難、育児や介護に支障をきたすなど、ワークライフバランスに深刻な影響を及ぼします。そこで働き方改革では、以下のような時間外労働上限規制を設けました。
・時間外労働の上限規制は、原則として月45時間・年360時間(休日労働は含まれず)
・臨時的、特別な事情で労働者と使用者が合意した場合でも時間外労働をする場合は年720時間以内、時間外労働+休日労働の場合は月100時間未満、2~6か月平均80時間以内に定める
・時間外労働の上限規制の原則「月45時間」を超えることができるのは年6か月まで
・「法定外労働時間」を超過すると法律違反と判断される
・時間外労働の上限規制は大企業が2019年4月から、中小企業は2020年4月から施行される
時間外労働の上限規制に違反すると、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金刑が科せられる恐れがあるので注意が必要です。
「時間外労働の上限規制」実務に向けてのポイント
時間外労働の上限規制の実務を行う際、まず大切なのは「法改正後の法律の内容を正しく理解する」ことです。例えば、一般認識されている「残業」という言葉は、法律上の「時間外労働」とは異なる場合があります。「残業」とは「会社で定めた所定労働時間を超える時間」と解釈されることが多く、17:30終業の会社であれば、18:00まで働くと「残業30分」という感覚が一般的です。しかし、法律上の「法定労働時間」で定める時間外労働は、原則「1日8時間1週40時間」を超える時間を指すため、この「残業30分」は法定労働時間の解釈では、「時間外労働」にはなりません。「残業30分」が時間外労働と認められるかどうかは、「残業手当の算定基準」を決める際に、「所定時間労働を超える時」か「法定労働時間を超える時」かを、労使の定めによって決められます。ちなみに、厚生労働省が指南する「働き方改革ガイドライン」の中での「時間外労働」は、基本的に「法定労働時間」を指しています。
以上の点を踏まえ、「時間外労働の上限規制」実務に向けてのポイントをご紹介します。
1)労働時間を適正に把握する
事業者は、労働者の労働時間を適正に把握し、管理する責務があります。労働時間の管理方法は、PC等の使用時間の記録、タイムカードによる記録、客観的な方法や、使用者による現認が原則です。やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合は、労働者に適正な運用などのガイドラインに戻づく措置等を十分に説明し、自己申告と実際のパソコン使用時間などから、把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合は、実態を調査し補正する必要があります。もちろん、事業主は、自己申告できる時間数の上限を予め設けておくなど、「適正な自己申告を阻害する措置」を設けてはいけません。事業主は、労働者ごとに労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、などの項目を適正に記入し、記録として残して3年間保存します。
2)時間外労働の上限規制に設けられている「経過措置」について
時間外労働の上限規制は、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から施行されますが、2019年3月31日を含む期間について定めた36協定については、協定を締結した初日から1年間は引き続き有効になるため、上限規制は適用されず、経過措置期間が設けられます。例えば、2019年4月1日に締結した36協定の場合は、大企業の場合、すでに上限規制が適用されるため経過措置には該当しません。しかし、2018年10月1日に締結した36協定の場合は、2019年9月30日まで上限規制の適用がされない経過措置期間に該当します。その場合、翌日の2019年10月1日に締結した36協定は上限規制が適用されます。
3)時間外労働の上限規制が猶予・除外となっている事業・業務とは?
業務の種類や役割によって、時間外労働の上限規制が猶予・除外となっている事業や業務が存在します。2024年3月31日まで上限規制が適用されない業務は、建設事業・自動車運転の業務・医師です。2024年4月1日以降はそれぞれ以下のような条件下での適用となります。
・建設事業
2024年4月1日以降は、災害の復旧・復興をのぞき、上限規制が全て適用となります。災害の復旧・復興の事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について「月100時間未満」「2~6か月平均80時間以内」とする規制は適用されません
・自動車運転の業務
2024年4月1日以降は、特別条項付き36協定を締結する場合の年間時間外労働の上限が、年960時間とされます。時間外労働と休日労働の合計については、「月100時間未満」「2~6か月平均80時間以内」とする規制は適用されません。「時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月までとする」規制は適用されません。
・医師
2024年4月1日以降の具体的な上限時間は現在決まっておらず、今後省令で定めることとされています。
・新技術、新商品などの研究開発業務
1週間あたり40時間を超えて労働した時間が月100時間を超えた場合、医師の面接指導が罰則規程付きで義務付けられました。事業主は、面接指導を行った医師の意見を勘案し必要がある場合は、部署移動や職務内容変更、有給休暇の付与などでフォローする必要があります。
36協定の締結の際に注意するポイント
前述した指針と合わせ、労働者と36協定締結の際の注意点をご紹介します。
1)労働時間の限度は「1日」「1か月」「1年」それぞれで定める
これまでの36協定では、労働時間を延長することができる期間は、「1日」「1日を超えて3か月の期間」「1年」とされてきました。今回、法改正による時間外労働の上限規制の適用では、「1日」「1か月」「1年」のそれぞれの時間外労働の限度を定めなければいけません。
2)協定期間の「起算日」を定める
1年の上限を算定するためには協定期間の「起算日」を定めます。
3)時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2~6か月平均80時間以内にすることを協定する必要がある
今回の36協定では、「1日」「1か月」「1年」の時間外労働の上限時間を定めますが、この時間内で労働させた場合でも、実際の時間外労働と休日労働の合計が「月100時間以上」、または2~6か月平均80時間を超えた場合は、違反となってしまいます。そうならないために、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満、2~6か月平均80時間以内と協定しておく必要があります。
4)「臨時的な特別の事情がある場合」限度時間を超えて労働させることができる時がある
例えば、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙や予算決算時期の業務、大規模なクレーム対応、機械のトラブルへの対応など、臨時的な特別の事情がある場合は、限度時間を超えて労働させることができます。しかし、恒常的な長時間労働を招く恐れがあるので、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合は、できる限り具体的に定める必要があります。
36協定締結後の上限規制実務について
労働時間管理の実務を行う際の注意点を下にまとめました。
1)時間外労働・休日労働について36協定を締結する
「1日」「1か月」「1年」のそれぞれの時間外労働が、36協定で定めた時間外労働時間の限度時間超えないように管理します。そのためには、日々及び月々の時間外労働の累計時間を把握して、1年の時間外労働の限度を超えないように注意しましょう。
2)毎月の時間外労働、休日労働の時間数とその合計を把握する
時間外労働と同様に、休日労働時間の回数・時間が、36協定で定めた回数・時間を超えないように管理します。
3)36協定の対象期間における時間外労働が、月45時間を超えた回数、別条項の回数と時間外労働の累積時間数を把握する
特別条項の回数が残っている場合は、36協定で定めた時間外労働の残時間数まで、特別条項が残っていなければ原則の上限時間(=限度時間)まで(または、時間外労働の残時間が限度時間以下なら男児関数までとなるように)月の時間外労働を管理します。月の時間外労働が限度を超えた回数(=特別条項の回数)の年度累計回数を把握し、36協定で定めた回数を超えないよう注意してください。
4)毎月の時間外労働と休日労働の合計時間数について2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均を算出し時間を把握する
毎月の時間外労働と休日労働の合計が100時間以上とならないように管理します。
5)これまでに把握した前月までの実績をもとに、当月の時間外労働数と休日労働時間数の最大可能時間数を把握する
月の時間外労働と休日労働の合計について、それ以前の2~5か月合計と合算し、月数(2か月~6か月×80時間)を超えないように管理します。
働き方改革の「時間外労働の上限規制」に対応する場合、法律の正しい解釈と、労働時間の適正な把握が不可欠となります。もっと実務対応をスムーズにするために、セミナーなどを受講してみるのはいかがでしょうか?
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【参考情報】
厚生労働省リーフレット
時間外労働の上限規制分かりやすい解釈