働き方で労務はどう変わる?「年5日年次有給休暇の確実な取得」編

「年次有給休暇」は労働者のリフレッシュを目的として与えられる休日です。しかし、労働者が自分の好きなタイミングで年次有給休暇を取得できる企業はほんの一握りで、ほとんどの企業では、人手不足や繁忙期、会社都合などによって思うように取得できないのが現状です。働き方改革では、課題となっている有給休暇の取得促進を促すために「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が導入されました。ここでは「年5日年次有給休暇の確実な取得」についての解説、そして労務について解説いたします。

 

「年5日の年次有給休暇の確実な取得」とは?

「年5日年次有給休暇の確実な取得」とは、「全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが」を義務付けたものです。対象者には、正規雇用労働者だけでなく、管理監督者や有期雇用労働者も含まれ、年次有給休暇付与日が10日以上、という条件が付いています。

原則として、事業者は労働者ごとに「年次有給休暇を付与した日」を基準日とし、1年以内に5日間、取得時季を指定して、年次有給休暇を取得させなければなりません。取得時季については、労働者と話合い、できるだけ希望に沿う形で取得できるよう、労働者の意見を尊重します。年5日の取得方法にすいては、「事業者による時季指定」「労働者からの請求」「計画年休」のいずれかで、年5日以上年次有給休暇を取得させていれば条件をクリアしますので、事業者から時季指定をする必要がなくなります。

なお、この項目には罰則規定があり、事業者が年5日の年次有給休暇の確実な取得をさせない場合、年次有給休暇の取得の際に、事業者が時季指定を行うことを就業規則に記載していないなどの場合には、30万円以下の罰金刑が科せられる恐れがあります。

 

「年5日年次有給休暇の確実な取得」を実践するための基本的なルール

「年5日年次有給休暇の確実な取得」を実践するにあたり、年次有給休暇を付与するタイミングや、繰り越し、年休の種類など基本的なルールについてまとめました。

【年次有給休暇と取得に関するルール】

(1)年次有給休暇の発生要件と付与日数について
年次有給休暇の取得条件は以下の2点です。

・雇用日から6か月継続して雇われている
・全労働日の8割以上出勤している

これらの条件を満たしている労働者に対して、事業者は、原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません。パートタイム労働者や所定労働日数が少ない労働者に対しても、所定労働時間が週30時間未満で、週所定労働美が4日以下、または年間の所定労働日数が216日以下の労働者に、年次有給休暇が付与されます。

(2)年次有給休暇を与えるタイミングと繰り越しについて
原則として年次有給休暇は、「労働者が請求する時季に与えること」とされています。ただし、労働者が具体的な月日時を指定した場合は、事業者による「時季変更権」によって、請求どおりの時季に年次有給休暇を取得できないことがあります。例えば、同一期間に多数の労働者が、休暇を希望した場合などです。このように、事業者が事業の運営を妨げる恐れのある場合と判断した際、時季変更権によって、他の時季に年次有給休暇の時季を変更することが可能です。ちなみに、年次有給休暇の請求権の時効は2年とされており、前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に持ち越しとなります。

(3)不利益扱いの禁止について
事業者は、年次有給休暇を取得した労働者に対しては、賃金の減額、有給休暇の日を欠勤扱いとして精皆勤手当てや賞与の算定をするなど、不利益な取り扱いとならないようにしなければいけません。

 

【年5日の年次有給休暇の確実な取得をするためのルール】

(1)働き方改革導入前との相違点
「年5日年次有給休暇の確実な取得」は、2019年4月から導入が決められた働き方改革の項目です。それ以前の2019年3月までは、年次有給休暇の取得日数ついて、特に事業者に義務はなく、罰則もありませんでした。

(2)年5日の年次有給休暇の確実な取得ができる対象者
「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の対象者は、「年次有給休暇が10日以上付与される労働者」です。この「労働者」の中には、管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

(3)「年5日」の時季指定義務と時季指定の方法
事業者が、年5日の年次有給休暇を時季指定する場合は、労働者から意見を聴取し、できる限り希望に沿った形の取得時季となるよう、その意見を尊重しなければなりません。また、すでに5日の年次有給休暇を請求・取得している労働者にたしては、時季指定の必要がなく、また事業者からこれ以上の時季指定をすることもできません。また、労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、事業者と労働者が話し合った上で、計画的に取得日を定めた「計画年休」については、その日数分を時季指定義務である「年5日」から控除しなければなりません。

(4)年次有給休暇管理とは?
事業者は、年次有給休暇管理簿で、有給取得時季や日数、及び基準日を労働者ごとに明らかにして記録し、3年間保存しなければなりません。年次有給休暇管理簿は、労働者名簿または、賃金台帳を合わせての調製も可能です。必要な時にいつでも出力できるような仕組みを構築した上で、システム上で管理しても問題ありません。

(5)就業規則への規定について
事業者による年次有給休暇の時季指定を実施する際は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。休暇に関する事項は、労働基準法第89条にて「就業規則の絶対的必要記載事項」と定められています。記載していない場合は30万円以下の罰金刑に科せられる恐れがあります。

 

「年5日の年次有給休暇の確実な取得」に関する実務対応について

「年5日の年次有給休暇の確実な取得」を導入した場合の実務は、どのように対応したらよいのでしょうか?管理方法や、時季指定方法などについて解説します。

(1)年次有給休暇の管理方法
年次有給休暇を決めるには「基準日」が重要となってきますが、人によって入社日が異なる企業では、基準日がまちまちになり、年5日の年次有給休暇を取得させるための管理が難しくなります。管理をスムーズにするためには、基準日を一つにまとめることが有効です。例えば1月1日の年始や、4月1日の年度初めなどに設定すると、統一的な管理が期待できます。月の途中などに入社の可能性が高い中小企業などは、基準義を月初めに統一することがおすすめです。

(2)年次有給休暇を確実に年5日取得する方法
a)年次有給休暇取得計画表を作成する
「働き方改革」という法で定められたとしても、これまでの慣例に縛られて「確実に」は取得しにくいのが現状です。労働者が職場に気兼ねなく「確実に」取得するためには、事業者側で「年次有給休暇取得計画表」を作成し、労働者ごとに休暇取得予定を明示することで、職場内での取得時期調整が可能となります。

b)年次有給休暇取得計画表の作成時期
年次有給休暇取得計画表を作成するタイミングは、基準日までに作成しておくことがベストです。年間予定の作成時期が遅くなると、予定とは違うイレギュラーな事態が発生した時に、対応できなくなります。年次有給休暇取得計画表の作成も大切ですが、誰が年次休暇を取っても滞りなく業務ができる体制の整備や、取得状況のフォローアップを行うなど「有給休暇を取得しやすい職場づくり」も重要です。

c)事業者から時季指定を行う
「年5日の年次有給休暇の確実な取得」では、事業者が「年5日」の有給休暇を時季指定して与える必要があります。労働者からの年次有給休暇の請求を妨げずに、効率的な管理を行うためのポイントは以下の2点です。

●基準日から半年を過ぎても有給休暇が取得されないなど、一定のタイミングで労働者からの年次有給休暇の請求・取得日数が5日未満の場合、事業者の方から年次有給休暇を時季指定して取得させる

●労働者の過去の実績を見て、年次有給休暇日数が著しく少ない場合、労働者が年間を通じて計画的に年次有給休暇を取得できるよう、基準日に事業者の方から時季指定して取得させる

 

企業で取り組む年次有給休暇の「計画年休」とは?

年次有給休暇をためらいなく取得させる方法として、「年次有給休暇の計画的付与制度」を導入している企業もあります。前もって事業者側から休暇取得日を割り振り、取得義務とされている5日としてカウントされる制度です。事業者側から指定するのは年次有給休暇全体から5日で、残りの日数は労働者が自由に取得できます。

(1)計画年休メリット
計画年休のメリットは、事業者側の労務管理がしやすく、計画的な事業運営ができる点があります。24時間サービスを実施している業務形態の企業などでは、あらかじめ計画的に年休を組み込めば、シフトの調整などへの影響が少なくなります。労働者側のメリットとしては「ためらいを感じずに年次有給休暇を取得できる」点にあるでしょう。事業者側から指定された休日なので、気兼ねなく休むことができます。

(2)計画年休の方式
計画年休の方式には、企業や職場環境、業務業態によって様々な方法があります。

a)企業や職場全体の休業による「一斉付与方式」
「一斉付与方式」は、全労働者に対して同一の日に年次有給休暇を付与する方式です。製造業など、工場の操業をストップさせて、全労働者を休ませることができる事業所などで採用されています。夏季休暇や年末年始と組み合わせる「ブリッジホリデー」として計画し、大型連休にするケースなどがあります。

b)「班・グループ別の交代制付与方式」
「班・グループ別の交替制付与方式」は、班・グループ別に交替で年次有給休暇を付与する方式です。流通・サービス業など、定休日を増やすことが困難な企業や事業場などで採用されています。

c)年次有給休暇付与計画表を活用した「個人別付与方式」
「個人別付与方式」は、労働者個人に合わせて計画年休を充てる方式です。例えば、誕生日や記念日などに優先して休日とするアニバーサリー休暇などが該当します。また一斉付与方式のように、夏季休暇や年末年始、ゴールデンウィークなどの間を橋渡しするブリッジホリデーを採用している事業者もあります。

 

このように「年5日の年次有給休暇の確実な取得」には、これまで企業が取り組んでいなかった「労働者の年次有給休暇の管理」が鍵となります。そのためには、こまめに部署内でミーティングを実施し、労働者の業務の進行状況などをチームで把握し、誰かが休みでもフォローしあえるような職場環境づくりを目指すことが重要です。

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【参考情報】
厚生労働省リーフレット
「年5日の年次有給休暇の確実な取得」わかりやすい解説