単身高齢者入居契約を後押しする「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは?策定の背景や概要について

単身高齢者が賃貸物件を探す際、様々なリスクを懸念され、貸主側から断られるケースが増加しています。特に、借主が死後に残す所有物である「残置物の処理」は、処理が完了するまでは時間と費用がかかるため、貸主にとっての大きなリスクのひとつと懸念されています。国土交通省では「残置物の処理」に関するリスクを解消すべく、令和3年6月に「残置物の処理などに関するモデル契約条項」を策定しました。「残置物の処理等に関するモデル契約条項」とは、具体的にどのような条項なのでしょうか。策定の背景や概要などについて解説致します。

 

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」策定の背景

まずは「残置物の処理等に関するモデル契約条項」策定の背景について、探ってみましょう。

●貸主が懸念する「リスク」
単身高齢者が賃貸物件を探す際、貸主は3つのリスクを懸念します。

(1)死亡リスク
入居後に孤独死をしてしまい、残された所有物「残置物」の処分に時間と費用がかかるリスク

(2)健康リスク
入居後に認知症や寝たきりになり、一人で暮らすことが困難になるリスク

(3)家賃滞納リスク
収入がなくなり、家賃の支払いが困難になるリスク

この中でも特に懸念されるリスクが、(1)死亡リスクです。残置物の処分はもちろん、貸室の中で孤独死してしまうと、次の借主への告知義務が発生し、部屋に借り手がつかなくなる恐れがあるからです。

 

●条項策定の背景とは?
国土交通省では、多くの貸主がリスクと判断する「残置物の処理」に関して、令和3年6月にモデル契約事項を策定しました。その「背景」として、以下のように解説しています。

『賃借人の死亡後、賃借権と居室内に残された家財(以下「残置物」という)の所有権は、その相続人に継承(相続)されるため、相続人の有無や所在が分からない場合、賃貸借契約の解除や残置物の処理が困難になることがあり、特に単身高齢者に対して賃貸人が建物を貸すことを躊躇する問題が生じています。このような賃貸人の不安感を払拭し、単身高齢者の居住の安定確保を図る観点から、国土交通省及び、法務省において、死後事務委任契約を締結する方法について検討を行い、単身高齢者の死亡後に契約関係及び残置物を円滑に処理できるように「残置物の処理等に関するモデル契約条項」(ひな形)を策定しました』

この「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を策定することにより、貸主と高齢者借主が賃貸契約を結ぶ際に、予め残置物の取扱いを取り決めることができるようになるため、貸主の負担が軽減し、高齢借主も賃貸物件を探しやすくなるという双方のメリットが生まれました。

 

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の概要とその詳細について

実際に「残置物の処理等に関するモデル条項」とは、どのような条項なのでしょうか。概要と詳細について、まとめました。

●「残置物処理等に関するモデル契約条項」の概要
「残置物処理等に関するモデル契約条項」の概要は、以下の通りです。

・高齢者が賃貸借契約を結ぶ際、「借主が死亡した場合の契約解除や残置物の処理についての取扱いを予め定めておく」ためのモデル契約条項(ひな形)である

・この場合の「高齢者」は、「60歳以上の単身者」を想定している

・残置物処理等に関するモデル契約条項内の「受任者」は、「借主の法定相続人」「居住支援法人、社会福祉法人等」「管理業者」を想定している

 

●「残置物処理等に関するモデル契約条項」の詳細について
「残置物処理等に関するモデル契約条項」は、単身高齢者との賃貸借契約にあたり「賃借人」と「受任者」との間に以下の2つの契約を締結すると有効とされています。

①賃借契約の解除事務の委任に関する契約
賃借人の死亡時に、賃借人との合意によって賃貸契約を解除する代理権を受任者に与える契約。

②残置物の処理事務の委任に関する契約
・賃借人の死亡時における残置物の廃棄や指定先への送付等の事務を受任者に委託できる
・賃借人は「廃棄しない残置物」(相続人等に渡す家財等)を指定するとともに、その送付先を明らかにする
・受任者は賃借人の死亡から一定期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後に「廃棄しない残置物」以外のものを廃棄する。但し換価することができる残置物については換価するように努める必要がある

「残置物処理等に関するモデル契約条項」は、大家の立場となる「貸側」が「受任者」と結ぶ契約です。イメージは下記の通りです。

<大家>【賃貸借契約】<入居者>【委任契約】<受任者>
【参考】
e-Gov電子政府の総合窓口
>>>「残置物の処理等に関するモデル契約条項」

 

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」で入居者・受任者がするべきこと

「残置物の処理等に関するモデル契約条項」において、入居者と受任者が「するべきこと」をピックアップしました。

●入居者は前もって財産を分類・整理しておく
入居者は「もしものとき」に備え、廃棄する家財と廃棄しない家財(相続人に渡す家財)を整理しておく必要があります。家財のリストアップや、目印となるシールなどを貼っておくことが推奨されています。また、金庫などに保管しておくこともお勧めですが、その際は受任者に分かるようにしておくことがポイントです。受任者以外に家財を渡すことがあるなら、家財を渡す相手の送付先住所を伝えておきましょう。

●受任者は入居者の死亡後に契約解除・残置物処理を実施する
受任者は入居者が死亡した後、相続人が引き続き居住するかどうか希望を聞いた上で、賃貸借契約の解除や継続に関する事務手続きを行います。また、残置物の処理に関しては、入居者の死亡から一定期間(少なくとも3か月)が経過しつつ、賃貸借契約が終了した「後」に廃棄することが可能となります。

●賃貸人の役割
賃貸人は、入居者が亡くなったことを知った際、受任者への通知や、受任者が住居内に入る際の立ち合い協力などを求められる場合があります。

 

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【参照情報】
法務省
>>>残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について~円滑に賃貸住宅の残置物を処理する方法をお示しします~

国土交通省
>>>残置物の処理等に関するモデル契約条項(ひな形)の策定について~円滑に賃貸住宅の残置物を処理する方法をお示しします~

>>>残置物の処理などに関する契約の活用手引き~単身高齢者が亡くなったときのために~

>>>【大家さんのための単身入居者の受入れガイド】

どくがく不動産
>>>賃貸物件の高齢者入居促進の一助となるか?【残置物の処理等に関するモデル契約条項】

健美家
>>>単身高齢者死亡後の契約解除、残置物処理を円滑に。国交省がモデル契約条項を策定