<派遣労働者を守る「労働契約申込みみなし制度」とは?【1】> 労働契約申込みみなし制度「5つの類型」を解説
労働者派遣法が施行され、人材派遣が解禁されたのは1986年のことで、その10年後の1996年にバブルが崩壊し、人材派遣の需要が一気に拡大しました。古くからある働き方ではありませんが、めまぐるしい社会の変化と共に、派遣労働者を守るため、何度か法改正を実施しています。それでも、派遣禁止業務への人材派遣や、期間期限を超過して雇用し続けるなどの違法派遣が後を絶たたずに社会問題化されていました。「労働契約申込みみなし制度」とは、上記の禁止業務への派遣や、雇用期間の超過などを派遣先が実施した時に、派遣先が派遣労働者に対して「直接雇用を申し込んだもの」と「みなす」こととする制度として施行されました。ここでは、労働契約申込みみなし制度の概要と5つの類型について、それぞれ解説いたします。
労働契約申込みみなし制度とは?
「労働契約申込みみなし制度」とは、派遣先事業所が、派遣禁止業務や期間超過などの違法派遣を受けた自手で、派遣先が派遣労働者に対して「直接雇用を申し込んだもの」と「みなす」こととした制度です。(労働者派遣法46条の6第1項)そもそも、派遣労働者は「派遣元事業主」との間で雇用契約が成立しており、指揮命令は「派遣先事業所」の管轄で業務に付きます。違法派遣が発覚した場合は「派遣先事業所」が「派遣労働者」に対して雇用契約を申し込んだとみなされ、派遣労働者は、派遣元事業所と直接雇用契約を結んだことになります。この場合、派遣労働者は、元の雇用主である派遣元事業主の時の雇用契約と同じ条件で派遣先事業所と契約を結ぶ、という点がポイントです。
契約申込みみなし制度「5つの類型」を解説
労働
「労働契約申込みみなし制度」の対象となる違法派遣には、下記の5つの類型が存在します。
(1)派遣労働者を禁止業務に従事させること
(2)無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
(3)事務所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
(4)個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
(5)いわゆる偽装請負等
それぞれについて、厚生労働省のリーフレットなどを参考にし、解説いたします。
(1)派遣労働者を禁止業務に従事させること
派遣先事業所が、禁止されている業務に派遣労働者を従事させた場合は、労働契約申込みみなし制度が適用されます。以下の業務が、禁止業務に該当します。
・港湾運送業務
湾岸と船舶の貨物の搬入など港湾に関わる業務を指します。港湾で行う業務は「港湾労働法」にて「港湾労働者派遣制度」が設けられています。
・建設業務
建設工事現場で、建設資材の運搬、組み立て、車両誘導、壁・床・天井の塗装や舗装、工事後の現場の整理・清掃、建造物や家屋の解体作業が建設業務に該当します。建設業務は「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」にて、請負業態の雇用関係が明確化しているので、労働者派遣は禁止事項となります。
・警備業務
警備業務とは、住宅や駐車場の巡回や、交通整理業務の他、イベント会場や店舗の入り口での手荷物検査、混雑時の人や車両の誘導などが該当します。これらの警備業務には「警備法」が適用されているため、労働者派遣が禁止となっています。
・医療業務
医療業務は、医師・看護師・准看護師などの業務が該当します。適正な医療業務のためには、意思疎通が十分に取れているチームワークが必要です。臨時的や一時的な労働者派遣ではチームワークの医療業務が難しいという点から、労働者派遣は禁止されています。ただし例外があり、紹介予定派遣や、社会福祉施設などで実施される医療業務、産前産後休業・育児休業・介護救護中の労働者の代替え業務、へき地や離島の病院など、必要とされる地域医療の確保のため、必要と認められた場合は、医師の派遣が認可されています。
・士業
士業は弁護士、司法書士、公認会計士、税理士、行政書士が該当します。士業とは本来、依頼者からの依頼を受けて業務を行うため「労働者」として指揮命令の元で業務を行うのではいので、労働派遣が禁じられています。ただし、公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士などの業務では、派遣が認められている部分もあります。
(2)無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
無許可事業主から労働者派遣を受けた場合は、その派遣元事業主から受け入れた派遣労働者に対して、労働者派遣を受けた者が、労働契約を申し込んだとみなされる、労働契約申込みみなし制度が適用されます。なお、許可事業主については、厚生労働省の「人材サービス総合サイト」にて確認が可能となります。労働者を受入れる場合は、適正な許可のある派遣元事業者であるかどうかを確認しておくことがポイントです。
(3)事務所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
期間制限の抵触日以降、っ巻制限対象外の派遣労働者を除く、受け入れた派遣労働者に対しては、派遣先が労働契約を申し込んだものとみなされます。以下に、そのケースをまとめました。
①抵触日の1か月前までに過半数労働組合等から派遣可能期間を延長するための意見聴取を行わずに継続して労働者派遣を受けた場合
②意見を聴取した過半数を代表者が管理監督者であった場合。ただし、管理監督者しかいない場合民主的な方法によって選出された者から意見聴取を行った場合は除く
③派遣可能期間を延長するための代表者選出であることを明示せずに選出された者から意見聴取をおこなった場合
④使用者の氏名など非民主的な方法によって選出された者から意見聴取を行った場合
(4)個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
常用雇用の代替防止と派遣労働者の固定化防止の観点により、労働者の派遣受入可能期間には制限が設けられています。この定められた期間を超えて派遣労働者を従事させた場合には、労働契約申込みみなし制度が適用されることになっています。派遣受入期間には、「事業所単位」と「個人単位」があります。
・事業所単位の期間期限→派遣先の同一事業所に派遣できる期間は原則3年が上限
・個人単位の期間期限→同一の派遣労働者を派遣先の同一の組織単位に派遣できる期間は3年が上限。
事業単位の期間制限及び個人単位の期間制限の抵触日に関しては、派遣元事業主から派遣労働者に対して明示することになっています。
(5)いわゆる偽装請負等
労働者派遣法または、同法により適用される労働基準法等の適用を免れる目的で、請負契約等の契約を締結し、実際には労働者派遣を受けた場合には、労働契約申込みみなし制度が適用されます。偽装請負等で労働者派遣の役務の提供を受けた場合は、行政指導(派遣法第48条第1項)、改善命令(派遣法第49条)、勧告(派遣法第49条の2条第1項)、企業名の公表(派遣法第49条の2第2項)などの処分対象となります。
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