<令和の法改正「独占禁止法改正」で何が変わるのか?【3】> 独占禁止法改正の変更点を解説

独占禁止法改正は、令和2年12月25日に施行されることが決まっています。改正法では、「課徴金減免制度の改正」「課徴金算定方法の見直し」「弁護士・依頼者間秘匿特権の導入」「罰則規定の見直し」が実施されます。これらの改正案は、現行法とどのように違うのでしょうか?また、施行に向けて、企業はどのような対応をしたらよいのでしょうか?独占禁止法改正の変更点について、解説いたします。

【参考】
e-Gov 電子政府の総合窓口
>>>私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)

 

独占禁止法改正の変更点を解説

今回の改正で変更となっている「課徴金減免制度」の現行法と「課徴金算定方法」について解説します。

●課徴金減免制度改正
課徴金減免制度改正のポイントは、以下の通りです。

・事業者が事件の解明に資する調査協力をすると課徴金の額が減免となる「調査協力減免制度」の導入
・課徴金減免制度を利用できる事業者の上限が撤廃

現行法と改正後の減免率・減産率を、下記にまとめました。

【現行制度】
・調査開始前
申請順位1位→減免率 全額免除
2位→50%
3~5位→30%
6位以下→なし

・調査開始後
申請順位最大3者→減免率30%
上記以下→なし

【改正後】
・調査開始前
申請順位1位→全額免除
2位→20%(協力度合いに応じた減算率+最大40%)
3~5位→10%(+最大40%)
6位以下→5%(+最大40%)

・調査開始後
申請順位最大3社→減算率10%(協力度合いに応じた減免率+最大20%)
上記以下→5%(減免率+20%)

●課徴金算定方法の見直し3つのポイント
今回の改正法では、課徴金の算定方法も見直されています。算定方法の3つのポイントは、以下の通りです。

(1)算定期間の延長
現行法と算定期間が延長になります。

(現行法)
「不当な取引制限の実行としての事業活動が無くなる日から遡って3年間まで」
 ↓
(改正法)
「公正取引委員会による調査日の10年前まで遡れるようにするとともに、除斥期間を7年間になる」

(2)算定基礎の追加
現行法では「違反事業者の対象商品または役務の売上」と定められている算定基礎に、以下の要素が追加になります。

・違反事業者から指示または情報を得て商品または役務を供給した完全子会社等の売上額
・対象商品または役務に密接に関連する事業(下請受注等)の対価の額
・対象商品または役務を供給しないこと等に関して得た財産上の利益(談合金等)

(3)違反事業を継承する子会社などへの課徴金の賦課
改正法では「違反事業を継承する子会社などへの課徴金の賦課」も変更します。

(現行法)
調査開始日以降の継承のみ対象
 ↓
(改正法)
調査開始日前の継承も対象

●算定率について
改正法では、課徴金の算定方法が大幅に変更となります。

・小売業、卸売業の業種別算定率を廃止して基本算定率へ一本化する
・調査開始日の一ヵ月前の日までに違反行為をやめた者に対する軽減算定率の廃止
・中小企業算定率の適用対象から大企業の子会社を除く
・割増算定率の繰り返し違反累計について、最初の課徴金納付命令よりも前に同時並行する違反行為を取りやめた場合を適用対象から除外
・過去10年以内にその完全子会社が課徴金納付命令を受けた者や、違反事業者から違反行為に係る事業を継承した事業者を適用対象とす
・割増算定率の適用対象として、主導的役割の累計が追加
・割増算定率の適用対象として他の事業者に対し公正取引委員会の調査の際に資料の隠匿または仮装を要協などとした場合も追加

●弁護士・依頼者間秘匿特権の「要件」とは?
今回の改正法で、新たに追加される事項として「弁護士・依頼者間秘匿特権」の整備があります。弁護士・依頼者間秘匿特権では、一定の要件を満たすと確認できたものは、事業者と弁護士の間で秘密に行われた通信の内容を記載した文章が、審議官がアクセスしなくても、事業者に還付されるというものです。この場合の「一定の要件」は、以下の5つが該当します。

①提出命令時に事業者が本制度の取扱いを求めること
②適切な保管がされていること
③提出命令後、一定期間内に文書ごとに作成日時、作成者・共有者の氏名、属性。概要などを記載した文書(ログ)を提出すること
④本制度の対象外の資料が含まれている場合には、その内容を報告すること
⑤違法な行為を目的としたものではないこと

乱用防止措置として、判別手続きも設けられており、本制度の取扱いの求めがあった文書については、審査官が提出を明示し、封をほどこして、判別官の管理下に置き、判別官は上記の要件(特に③④)を満たすかを確認します。これにより、秘匿特権の対象となることが確認された文書は、速やかに事業者へ還付します。逆に、本制度の要件を満たすことができなかった文書は、審査官管理となります。

 

独占禁止法改正で企業はどうしたら良いか?

独占禁止法改正で、企業に求められる対応について、下記にまとめました。

●「課徴金算定方法の見直し」についての対応
課徴金の算定期間の過去10年までに遡る延長や、除斥期間の延長などの影響により、本来であれば算定の対象外であった過去の違法行為も対象に含まれる可能性が高くなります。過去の事例に対して資料が散逸した場合でも、一部の売り上げが不明な場合の算定基礎の推計規程も整備されているため、過去の資料が散逸した場合は、課徴金の算定において不利に働く恐れが強くなります。企業は、社内の文書保管規程や、電子メールシステムを見直すなどをして、過去の行為も徹底して管理する必要が出てきます。また、課徴金算定の基礎に、完全子会社等の売上額、下請受注の対価額、談合金等なども追加されているので、企業に対しての課徴金金額が重くなることが想定されます。より一層の社内規定の整備や、コンプライアンスの徹底をして、違反行為をなくすことが重要です。

●「弁護士・依頼者間秘匿特権」についての対応
アメリカなどでは、すでに導入されている秘匿特権制度は、日本で初めて導入される制度です。まずは、制度の対象となるタイミングや、要件などを正しく理解しておくことがスムーズな活用のポイントです。顧問弁護士や外部の弁護士などと十分に連絡を取り合い、準備を進めておきましょう。

 

独占禁止法改正についてはセミナーで

独占禁止法改正では、初めて「弁護士・依頼者間秘匿特権」が導入されます。新しい制度が導入される場合は、セミナーを活用することがお薦めです。弁護士や法務関係者とのやりとりを潤滑にするためにも、ぜひ受講してみてください!下記URLより、お好きなセミナーを探すことが可能です。

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【参照情報】
BUSINESS LAWYERS
>>>令和元年独占禁止法改正の概要と企業への影響、施行までに準備するべきこと

EY
>>>課徴金制度を見直す独占禁止法の改正

東京商工会議所
>>>独占禁止法改正の主なポイント