<令和の法改正「独占禁止法改正」で何が変わるのか?【2】> 独占禁止法改正までの流れと改正のポイントを解説

令和元年(2019年)6月19日「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」が、国会で成立しました。「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」より「独占禁止法」の名前で認知されているこの法律は、戦後GHQによって制定されました。今回の改正案は、課徴金減免制度の改正や、課徴金の算定方法の見直しなどが盛り込まれており、令和2年12月25日の施行が決まっています。ここでは独占禁止法改正までの流れや、改正のポイントなどについて解説いたします。

【参考】
e-Gov 電子政府の総合窓口
>>>私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)

 

たびたび改正されている独占禁止法

1947年に制定せれた独占禁止法は、もともとGHQによる財閥解体を目的として定められたものでしたが、アメリカの事情や、国内の社会情勢などにより度々改正が実施されています。まず、制定されてすぐの1949年と、1953年に大幅改定が実施され、解体されたはずの旧財閥系企業である三井や三菱などが復活しました。その後も何度か改正が行われ、直近では2015年に施行された内容が適用されています。2015年の改正の目玉は「審査制度の廃止」でした。

「審査制度」とは、公正取引委員会による行政処分に不服があった場合、不服申し立てを通じて公正取引委員会が処分の適否を判断できる制度でしたが、処分を下している側が可否の判断をするということに批判が集まり、廃止が決まりました。改正後では、不服申し立てをする際に、東京地裁が一括して管理をすることになり、必要に応じて、東京高裁や最高裁が判断を下すということで統一されました。「審査制度の廃止」の他に、「処分の内容に関する告知義務」「事実を立証する証拠を当事者が閲覧できる」ことが認められ、制定された当初よりも、市場が公平で自由な競争ができる制度へと変化し続けています。

 

2020年独禁法改正の背景

2020年の改正では、「課徴金」の減免制度や算定方法の見直しなどが実施される予定です。現行制度では課徴金について、以下のような点が問題視されてきました。

・カルテルの対象となった商品の国内売り上げが無い場合に、課徴金を科すことが難しい
・課徴金の減免率が固定されているため、減免の申請者の調査協力が十分に得られない

このため改正法では課徴金の算定について基礎を拡充し、公正取引委員会に減算の一定の裁量を与えることにより、申請者の調査への協力を引き出しやすくしました。また、調査協力をしてもらいやすくするために、弁護士の助言を得やすい「秘匿特権」も認められています。

 

独占禁止法改正4つ柱を解説

独占禁止法では、「課徴金減免制度の改正」「課徴金算定方法の見直し」「弁護士・依頼者秘匿特権」「罰則規定の見直し」の4つの柱がメインです。それぞれについて、以下にて解説いたします。

(1)課徴金減免制度の改正
現行法では、課徴金の額は「違反行為期間(最長3年間)のカルテルなどの対象商品・役務の売り上げ額に対して一定の算定率を乗じることにより、画一的機械的に算定されています。課徴金減免申請を行った場合の減免率は、申請時期と順位によって決定されるため、減免申請後に事業者の調査協力による程度が考慮されませんでした。この場合、実態に応じた課徴金を課すことが難しくなるため、一定以上の調査協力を行うインセンティブに対する課題が指摘されていました。改正法では、減免申請の課徴金減免に加え、事業者が事件の解明に資する調査協力をすると、課徴金の額を減免する仕組み「調査協力減算制度」が導入される予定です。また、現行法では、課徴金減免制度を利用できる事業者は最大5社(調査開始日以後は最大3社)までと限定されていましたが、改正法ではその上限が撤廃され多くの事業者が、調査対象となる審査事件において、減免を受ける機会が増えることになります。

(2)課徴金算定方法の見直し
改正法では、「実態に応じた適切な課徴金を課すこと」を目的とした、課徴金の算定方法についても見直しが実施されました。現行法での算定期間は最長3年間と定められていますが、改正後は調査開始日から10年前まで遡ることが可能となっています。また、資料がバラバラになってしまって、課徴金の算定基礎を把握できない算定期間については、算定期間を推計することが認められるようになりました。また、事業者に売上額がないことを理由に課徴金を課すことができないような事態の場合は、違反事業者から指示や情報を得た完全子会社等の売上額や対象商品・役務に密接に関連する事業の対価及び対象商品・役務を供給していないことの見返りとして受けた談合金等のいわゆる「財産上の利益」についても、課徴金の算定基礎に追加されるとのことです。算定率も業種別の算定率が廃止されて、10%の基本算定率に統一され、中小企業向けの軽減算定率も実質的に中小企業と言える事業者に適用範囲を限定する改正が実施されます。これらの見直しによって起こりうることは「課徴金の大幅な増加」であり、企業のコンプライアンスが問われることになります。

(3)罰則規定の見直し
現行法では、事業者や従業員に対する出頭、または必要な報告、情報提供もしくは資料の提出命令などの公正取引委員会からの強制処分に違反した場合、100万円の罰金刑が課せられましたが、改正法では100万円が300万円へと引き上げられ、行為者を罰する他、法人等に対しても罰金刑が課せられることになりました。さらに、検査妨害などの罪にかかる法人等に対する罰金の上限額が、2億円に引き上げられます。

(4)弁護士・依頼者秘匿特権
改正法では、新たな課徴金減免制度をより効果的に機能させるために、外部の弁護士との相談に係る法的意見等についての秘密を実質的に保護し、適正手続きを確保する観点から、蓋追う名取引制限の行政調査手続きを対象とし、独占禁止法第76条に基く規則、指針等によって「弁護士・依頼者間秘匿特権」を整備しました。これにより、不当な取引制限に関する法的意見について事業者と弁護士の間で秘密に行われた通信の内容を記載した文書で、一定の要件を満たすことが確認されたものは審査官がアクセスすることなく速やかに事業者に還付されまます。ただし、弁護士相談前から存在する資料(一次資料)、相談の基礎となる事実を収集し、取りまとめた資料(事実調査資料)等は本制度の対象外となります。

 

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独占禁止法改正は、令和2年12月25日に施行されます。改正後にあわてないように、今のうちに独占禁止法改正について、セミナーを受講して勉強しておきましょう!下記URLより、セミナーを探すことができます。あなたにピッタリのセミナーがみつかるかもしれません。

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【参照情報】
公正取引委員会
>>>(令和2年8月28日)独占禁止法改正法の施行に伴い整備する関係政令等について

EY
>>>課徴金制度を見直す独占禁止法の改正

東京商工会議所
>>>独占禁止法改正の主なポイント