<医師の働き方改革と診療報酬改定2020【1】> 診療報酬改定の基本方針のポイントを解説 医師の働き方はどう変わる
2020年は、診療報酬改定の年です。「医師の働き方改革」を重要課題とした今期の診療報酬改定は、医療従事者の負担軽減を含む医師の働き方改革の促進や、病院単位での機能分化の促進、医療機能の分化・強化・連携と地域包括ケアシステムの推進などが織り込まれています。2020年度診療報酬改定では、どのような基本方針が示されたのでしょうか?診療報酬の初歩的な知識も含め、2020年度診療報酬改定のポイントについて解説いたします。
2年に一度改定される「診療報酬」について
まずは、「診療報酬」について見て参りましょう。
●「診療報酬」とは?
「診療報酬」は、医療機関が患者を診察した時に受取る報酬のことで、国が定めた「公定価格」の扱いとなっています。患者が医療関係に支払う金額は、患者の自己負担(30%)と国民保険や健康保険(70%)を合わせた金額となりますが、医療関係が受け取った診療報酬が、すべて医療関係のものになるわけではありません。スタッフの人件費、検査や治療で使用する薬品代、医療機器の購入やリース、医療消耗器具などの備品、病院環境と整えるための設備関係などに使用されます。医療機関を経営してゆくために、診療報酬はその原資となります。
●診療報酬2年に一度改定される
新しい治療法や新薬など、目まぐるしく進化する医療の現場は、時代によって変動する社会や経済状況にも大きく影響されます。それに合わせて、診療報酬にも細かい調整が必要となるため2年ごとの改定が決められています。例えば、2018年の診療報酬改定では、後期高齢者社会を見据えて、医療と介護の双方を意識した持続可能な社会保障制度の実現を意識した「医療診療報酬」と3年に一度改定される「介護診療報酬」が同時に改定されました。診療報酬改定の決め方は、厚生労働大臣が、政府の決めた改定率を基に、中央社会保険医療協議会(中医協)に意見を求め、中医協の審議経て厚生労働大臣が公の価格を決定する、という流れとなっています。
2020年度の診療報酬改定は「医師の働き方改革」が重点課題
2020年度の診療報酬改定は、長時間労働が社会問題にもなっている医師の労働時間を短縮すべく、「医師の負担軽減と働き方改革」が重点課題とになっています。医師の働き方改革は、2018年度の診療報酬改定でも基本的視点に組み込まれていましたが、勤務環境改善や、医師の専従要件、勤務場所の規定の緩和などの既存点数の見直しが中心となって、具体的な働き方の改革までには踏み込んでいませんでした。2020年度の診療報酬改定では、長時間労働が問題視されている救急病院における新たな評価が行われる見込みとなっているほか、「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組の概要」として、以下の6項目を挙げています。
(1)医師の労働時間管理の適正化に向けた取組み
・医師の在院時間の客観的な把握
・ICカード、タイムカードなどがなくても出退勤時間の記録を上司が確認する
(2)36協定等の自己点検
・36協定の定めなく、また定めを超過して労働をさせていないかチェックする
・医師を含む関係機関の医療従事者とともに、36協定で定める時間外労働時間数について、セルフチェックを実施して必要に応じて見直す
(3)産業保健の仕組みの活用
・安全衛生法に定める衛生委員会や産業医等を活用する
・長時間労働の医師や診療科等ごとに対策方策を講じて個別に議論する
(4)タスク・シフティング(業務の移管)の推進
・点滴に係る業務、診断書等の代行入力業務については平成19年通知等の主旨を踏まえて医療安全に留意しつつ、原則医師以外の職種により、分担して実施し医師の負担を軽減する
・特定行為研修受講の推進と、研修を修了した看護師が適切に現場で役割を果たせる業務分担を具体的に検討することが望ましい
(5)女性医師等の支援
・女性医師に関しては短時間勤務など多様で柔軟な働き方の推進をし、きめ細やかな支援を実施する
(6)全ての医療機関において、取り組むことを基本とする1~5の他、各医療時間の状況に応じ、勤務時間外に緊急でない患者の病状説明などを行わないこと、当直明けの勤務負担の緩和
・連続勤務時間を考慮した退勤時刻の設定
・勤務間インターバルの設定
・複数主治医制の導入等について積極的な検討や導入に努める
令和2年診療報酬改定の基本方針とは
厚生労働省では、令和2年診療報酬改定の基本方針を、以下の4つに示しています。
(1)医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進
今回の診療報酬改定の重要課題とされている項目です。厳しい環境下で長時間労働をする医師の勤務環境を改善する取組みの評価や、地域医療の確保を図るための救急医療体制の評価、業務効率化に資するICT利活用の推進などが示されています。
(2)患者・国民にとって身近であって、安心、安全で質の高い医療の実現
国が推進する「かかりつけ医機能」の評価をはじめ、患者に対して、適切な情報相談や支援相談、重症化予防の取組み、治療と仕事の両立に資する取組みなどを推進しています。他にも、航空疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実など、生活の質に配慮した歯科医療の推進、薬局の対物業務から対人業務への構造的な転換を推進するための評価の重点化と適正化、院内薬剤師業務の評価、医療におけるICTの利活用など、きめ細かい内容となっています、
(3)医療機能の分化・強化・連携と地域包括ケアシステムの推進
医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価、外来医療の機能分化をはじめ、質の高い在宅医療・訪問看護の確保など、地域包括ケアシステムを推進するための取組みが示されています。
(4)効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上
後発医薬品の使用促進、費用対効果評価制度の活用、市場実勢価格を踏まえた適正な価格評価など、医薬品の効率化適正化を図り、医師・院内薬剤師の協働による医薬品の適性使用の推進を目指します。また、医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価、外来医療の機能分化、重症化予防の取組みの推進などが改めて掲載されています。
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