<欧州で義務化が進む「人権デューデリジェンス」をご存知ですか?【1】> 「人権デューデリジェンス」とは何か?注目される理由とは?
人種差別、民族差別、地域差別、児童虐待、強制労働など、人権をめぐる歴史は古く、世界各国で何かしらの人権問題を抱えています。企業活動がグローバル化してくると、これまで他人事だった他国の人権問題に向き合わざるを得ない状況となり、各国の歴史や商習慣を理解した取組みが求められるようになりました。インターネットの発達で世界がより近くなると、これまで自国では知り得なかった人権問題に触れる機会も増えいます。
例えば、とある企業がサプライチェーンの中で、児童労働や強制労働に関わる組織や国と取引をしていた、ということが露呈すると、そのニュースは瞬く間に世界中へ広がり、大規模な抗議活動や不買運動などが展開されます。人権問題が注目されやすくなっている今、企業ブランドを守るためにも、人権リスクには常に目を光らせておく必要があります。
今回は、欧州やアメリカなどで既に義務化に向けて動きが進んでいる「人権デューデリジェンス」についてまとめてみました。
「人権デューデリジェンス」の概要について
まずは「人権デューデリジェンス」の言葉の意味や概要について見て参ります。
●人権デューデリジェンスの意味
「人権デューデリジェンス」とは、企業のサプライチェーン(原材料調達、生産・製造、輸送、販売、廃棄)に潜む、強制労働や人種差別、児童労働、パラハラ・セクハラなどの人権リスクを「特定」し、それを「軽減」「予防」「救済」をする措置を取ることを指します。国内・国外のサプライチェーンだけでなく、企業内部における人権問題も対象となります。M&Aの世界で使われる、投資先の価値やリスクを調査する「デューデリジェンス」とは違い、人権デューデリジェンスは、企業に関わる全ての範囲、すべての過程において人権侵害のリスクを管理することが重要となります。
●企業活動に潜む人権デューデリジェンスリスク
企業活動の中っでは、あらゆるところに人権リスクが潜んでいます。
●サプライチェーンでの人権デューデリジェンスリスク
・調達
生産現場で児童労働や強制労働が横行している(カカオ豆の生産や綿花など)
・製造/物流
低賃金や劣悪な労働環境での長時間労働、外国人労働者や非正規労働者への人権侵害
・販売
パラハラ・セクハラ等のハラスメント、長時間労働、マイノリティの働きにくい労働環境など
●企業活動の中での人権デューデリジェンスリスク
強制労働や長時間労働の他に、企業か活動の中では下記のような人権デューデリジェンスリスクが潜んでます。
・賃金のピンはねや未払委の給料がある
・社会保障を受ける権利の侵害する
・自社の都合で取引内容を変更し取引先従業員の長時間労働を誘発させる合
・地上げ屋などに加担する企業に金銭を貸し付ける
このように、日本企業でもよく聞かれる労務上の問題も、人権デューデリジェンスリスクに該当するケースがあります。
「人権デューデリジェンス」が注目されたきっかけとは?
人権デューデリジェンスが注目されたのは、2011年にビジネスと人権に関する指導原則」が採択されたことがきっかけとされています。古くから世界中で存在する労働人権問題は、なぜ2011年になって注目されはじめたのでしょうか?「ビジネスと人権」について、掘り下げてみましょう。
●国連が策定した「ビジネスと人権に関する指導原則」にある3つの柱
2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」では、ハーバード大学のジョン・G・ラギー教授が中心となって、あらゆる国家及び企業に対して、「その規模、業種、所在地、所有者、組織構造に関わらず、人権の保護・尊重への取組を促す」ための以下の3つの柱を中心とした内容となっています。
(a)人権を保護ずる国家の義務
人権及び基本的自由を尊重し、保護し、充足する国家の義務
(b)人権を尊重する企業の責任
全ての適用可能な法令の遵守と人権尊重が要求される、専門的な機能を果たす専門家とした社会的機関としての企業の役割
(c)救済へのアクセス
権利と義務が、その侵害・違反がなされたが会いに、適切かつ実効的な救済を備えているという要請
企業は、これらの「国際社会に承認された人権」により、基本的な諸原則に則って社会的・道義的な責任を十分に認識し、人権を尊重することが明確に求められていることが分かります。
●サプライチェーンの拡大がきっかけで発覚した労働問題
1990年代以降、グローバル化によって、先進国がこぞってコストのかからない途上国に農園や工場を作り、安い労働力を大量に確保する動きがありました。そして、現地でのトラブルや事件、事故などによって、次々と強制労働や児童労働が露呈し、世界的ニュースとなって流れると、世界中で不買運用や株価の暴落が起こり、人権侵害を起こした企業が、致命的なダメージを受ける事例が多々発生しました。
労働人権問題がクローズアップされると、欧米諸国を中心に「ビジネスと人権問題」に対する関心が高まりはじめ、2011年の「ビジネスと人権の行動原則」が発せられた後には、各国で人権デューデリジェンス義務化に関する法整備が着々と進んでいます。
日本での人権デューデリジェンスはどうか?
欧米諸国とくらべ、日本を含むアジア周辺においては、人権デューデリジェンスは一歩遅れている状況にあると言われています。外務省では2020年10月に「ビジネスと人権に関する指導原則」の流れを汲んだNAP(行動計画)を策定しました。また、2021年6月に施行された上場企業向けの「コーポレートガバナンスコード(CGコード)の中には人権尊重を求める規定を含めています。政府主導で人権デューデリジェンスへの取組みが推奨され始めましたが、NAPに関しては世界で24番目の取組みで、同じアジアでもタイでは2019年に人権デューデリジェンスに関するNAPを発表しています。
国内での人権デューデリジェンスの取組みが遅くとも、世界を相手に商売をしている企業では、すでに施行されている欧米諸国の人権デューデリジェンス関連法案に向き合わなければなりません。そのためにも、まずは人権デューデリジェンスを知り、人権問題へ意識を高めていくことが重要です。
労働者の人権問題を知るにはセミナーが有効
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【参考サイト】
法務省
>>>「ビジネスと人権」への対応
Frontier Eyes Online
>>>人権デューデリジェンスとは?事例から国際的潮流を読む
BUSINESS INSIDER
>>>【QA】最近よく聞く「人権デューデリジェンス」って何?
国際労働機関
>>>欧州における人権デューデリジェンス義務化の最新動向について
HUFFPOST
>>>「人権デューデリジェンス」とは?企業に求められる人権リスクの管理手法。欧州では義務化も