<欧州で義務化が進む「人権デューデリジェンス」をご存知ですか?【2】> 「ビジネスと人権の行動原則」に関する世界の人権デューデリジェンス関連法案と日本企業の対応
2011年に国連で採択された「ビジネスと人権の行動原則」により、広がりを見せた「人権デューデリジェンス」は、欧米諸国を中心に、義務化に向けた関連法案の法整備が整いつつあります。ここに至るまで、どのような「ビジネスと人権」に絡む出来事があったのでしょうか?過去に起こった「ビジネスと人権」に絡む出来事、そして法整備が進む欧米諸国の人権デューデリジェンス法案、日本企業での人権デューデリジェンスについて解説します。
世界に潜む「ビジネスと人権」問題
人種差別、地域差別による強制労働や児童労働などは、昔から存在する人権問題でしたが、1990年以降、企業のグローバル化に伴い、世界的に有名なブランドやメーカーでの、労働人権問題が次々と発覚しました。世界の人々に「人権問題」を意識させるきっかけとなった「ビジネスと人権」にまつわる労働問題をご紹介します。
【1997年NIKE(ナイキ)の不買運動】
大手スポーツブランドの「NIKE」では、1997年にインドネシアやベトナムの委託工場で発覚した、劣悪な環境での強制的な長時間労働や児童労働が発覚し、世界中でNIKE製品の不買運動が広がり、NIKEは経営に大打撃を受けた。以後、NIKEでは、サプライチェーンの人権遵守に力を入れるようになる。
【2013年 ラナプラザの悲劇(バングラデッシュ)】
2013年4月、バングラデッシュのサパールという街にあった「ラナプラザ」が倒壊し、1200人近くの人が犠牲になった事件です。このビルには、ベネトンやH&M、ZARAなど、27社アパレル企業の縫製工場や商業施設が狭いビル内にひしめき合っており、ビルの亀裂が危険視されていたにも関わらず倒壊は免れず、多数の犠牲者を出す結果となりました。この事件がきっかけで、鍵付きの部屋に閉じ込めて働かせていた、危険が分かっていても解雇すると脅して避難させなかったなど、工場での劣悪な労働環境が露呈し、ビルのオーナーが逮捕されています。ラナプラザの悲劇は、大量生産、大量消費のファストファッションが生んだ悲劇として映画化もされ、広く知れ渡る結果となり、ラナプラザに工場があったファッションブランドも不買運動が起き、売り上げや顧客数に大きな影響がでました。
この他にも、チョコレートの原材料などのカカオ、パーム油、たばこ製品、バナナなどの生産に、児童労働が横行している現状があり、トレーサビリティの確立や、フェアトレードによる公正な賃金の支払いをするための活動が活発になるなど、人権問題が明るみになることで、世界の人権問題に関する意識は高まっていきました
人権デューデリジェンスに関する欧米各国の関連法案
人権デューデリジェンスに関して、欧米各国で関連法案の法整備が進んでいます。各国の動きを、まとめてみました。
【カリフォルニア州サプライチェーンの透明性に関する法律(アメリカ・カリフォルニア州 2012年施行)】
「カリフォルニア州サプライチェーンの透明性に関する法律」は、2012年から施行されている全世界対象の人権デューデリジェンス法です。
・カリフォルニア州で事業を行い全世界における売上高が1億ドルを超える小売事業者又は製造事業者が対象
・サプライチェーンにおける奴隷労働・人身取引に関するリスク評価のための監査の実施
・奴隷労働及び人身売買に関する法律に遵守していることの一次サプライヤーからの証明などの取組みの情報開示
【英国現代奴隷法(イギリス 2015年施行)】
「英国現代奴隷法」は、2015年にイギリスで施行された人権デーデリジェンス法です。
・イギリスで事業活動を行う営利団体・企業のうち、売上高が3600万ポンド(約50億円)以上のものを対象とし「奴隷労働と人身取引」に対する取組みについて情報開示を求める
【フランス人権デューデリジェンス法(フランス 2017年制定)】
フランス人権デューデリジェンス法は、2017年にフランスで制定された人権デューデリジェンス法です。
・自社とフランス領域内の直接・間接の子会社を合わせて従業員が5000人以上、または自社と全世界の直接・間接子会社を合わせた10,000人以上の企業が対象
・現代奴隷や児童労働といったカテゴリ分けはせず「自社及びサプライチェーンにおける人権・環境への負の影響に関する」デューデリジェンスの義務付け
【オランダ児童労働デューデリジェンス法(オランダ 2019年制定・2022年施行予定)】
「オランダ児童労働デューデリジェンス法」はオランダで2019年制定され、2022年施行の予定です。
・オランダで商品またはサービス提供を行う国内・国外の企業対し、サプライチェーン上の児童労働に係るデューデリジェンスの義務付け
・義務違反には87万ユーロもしくは売上の10%を上限とした罰金や刑事責任を課されるっ可能性がある
【カナダ現代奴隷法(カナダ 審議中)】
カナダで現在審議されているのは、サプライチェーンを含む強制労働又は、児童労働に関する報告義務を課す内容の人権デューデリジェンス法案です。カナダで上場企業する企業、もしくは、事業を展開する企業で、従業員数や売り上げなど一定の要件を満たした企業が対象となる予定です。
【ドイツサプライチェーン法案(ドイツ2021年中の成立を目指す)】
「ドイツサプライチェーン法案」は、ドイツが2021年中の法案成立、2023年からの施行を目指す人権デューデリジェンス法です。
・ドイツに本社を置く企業で従業員が一定規模以上(2023年の施行時は3,000人以上、2024年からは1,000人以上、海外グループ関連会社の従業員含む)企業が対象
・リスク管理体制の確立、リスク評価、是正措置、苦情処理のメカニズムの構築、情報開示等を内容とする
・違反時は最大80万ユーロ、もしくは年間売上高の2%の罰金などを定める
【EUサスティナブル・コーポレート・ガバナンスイニシアティブ(欧州議会 2021年の成立を目指す)】
「EUサスティナブル・コーポーレート・ガバナンスイニシアティブ」は欧州議会が企業に環境・人権デューデリジェンス義務化を求める人権デューデリジェンス法です。2021年の成立を目指しています。
・EU加盟国の法律に準拠しい又はEU域内にて設立されている大規模な事業体及び往生している又はリスクの高い中小規模の事業体が対象
・非EU域内市場で物品の販売及びサービスの提供を行っている大規模なっ事業体・上場している中小規模の事業体・リスクの高い業種の中小規模の事業体も対象
・サプライチェーン上の人権・環境・ガバナンスリスクの特定、方針策定、是正措置、モニタリングなどの内容を盛り込む予定
・違反した場合は、売り上げに応じた罰金や民事責任、公共調達や助成金からの一時的な除外、リスク製品の輸入禁止などの罰則規定が設けられる
このように、人権デューデリジェンス法は、EU全域にも適用されるようになり、EU諸国と取引のある日本企業も、これらの人権デューデリジェンス法に対応しなければなりません。
日本企業は「人権デューデリジェンス」にどう対応しているか?
日本は人権デューデリジェンスに関して、先進国の中でも一歩遅れた動きとなっていますが、日本企業の中にも、人権デューデリジェンスに対応している企業があります。
●花王
油脂製品製造会社、販売会社、プランテーション会社と協働して、インドネシアにある約5000件のパーム農園を対象に技術支援を実施し、生活の改善や向上を目指す。
●不二製油
トレーサビリティの確立や現地生産者への技術支援、生活支援を通じ、2030年を目途にカカオ豆農園での児童労働ゼロを目指す。
●大和ハウス
木材原産国の先住民や労働者の権利・安全に配慮した木材を調達するため、サプライヤーに対し2030年までに労働や人権に関する方針策定を要請している。
●キリン
ミャンマーで発生した国軍のクーデーターを受け、ミャンマーで展開するビール事業において、国軍と取引のあるミャンマー・エコノミック・ホールディングスとの合弁事業を解消。
このように、人権問題を察知し迅速に手を打つ企業、SDGsで取組む企業などで人権デューデリジェンスに向き合う日本企業も増えてきています。
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世界の人権問題は根深く、日本では想像のできない過酷な環境で労働を強いられている人たちが、今なお存在し続けています。海外のサプライチェーンの状況や、海外ビジネスの情報はセミナーで得ること可能です。SDGsやESG投資などのセミナーを受講し、世界情勢への見識を深めましょう。下記URLよりお好みのセミナーを、探すことができます。
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【参照情報】
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