<コロナ禍を乗り切る!企業のための新型コロナウイルス対策【8】> 株主総会が進化する ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の運用方法
新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、株主総会の在り方が変わろうとしています。もともとは、遠隔地の株主や、高齢で会場へ足を運べない株主を想定して準備が進められてきたハイブリッド型バーチャル株主総会は、株主総会における新型コロナウイルス感染症予防策の一手とし注目を集めています。ハイブリッド型バーチャル株主総会には、質問や動議の権利を持たない「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」と、質問や動議の権利を持つ「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」があります。ここでは、「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」の運用方法や実務について解説いたします。
ハイブリッド型バーチャル株主総会に必要な環境整備
ハイブリッド型バーチャル株主総会は、インターネットを介したやりとりが前提となっています。したがって、「参加型」でも「出席型」でもハイブリッド型バーチャル株主総会を選択する場合は、「環境設備」が重要となります。ハイブリッド型バーチャル株主総会のために必要な環境設備についての詳細を見てみましょう。
(1)「バーチャル出席」することのリスク
Web上には、様々なリスクが存在します。例えば、何者かによるサイバー攻撃や、大規模通信障害など、100%万全な体制で通信ができる、という保証はありません。ハイブリッド型バーチャル株主総会では、開催場所と株主との間で、円滑な双方向コミュニケーションが必須であり、特に、質問や動議の権利がある「出席型」の場合は、情報伝達の双方向性と即時性の確保が重要です。企業側は、株主がスムーズに株主総会の会場へアクセスできるために、一定の情報提供をするなどの対策を取ることが望ましいとされています。また、通信の不具合は、株主側の問題で発生する場合もあります。そのような、株主側のトラブルでバーチャル出席できない場合は、交通機関の障害などで、株主がリアル株主総会会場へ出席できないのと同様に、株主総会の決議の瑕疵とはなりません。このようにハイブリッド型バーチャル株主総会へバーチャル出席する場合は、ある程度の「通信上のリスク」を想定しておく必要があります。
(2)環境整備のための実務
ハイブリッド型バーチャル株主総会の環境整備をするために、実務上ではどのような取扱いをしたらよいでしょうか?企業側が取るべき対策を、以下にまとめました。
- 第三者にハッキングされて議決権の行使をされないよう、企業側が経営合理的な範囲において導入可能なサイバーセキュリティ対策を講じる
- 通陳障害が起こりうる可能性があることを、招集通知やログイン画面にて注意喚起をする
- 株主が株主総会にアクセスするために必要となる環境(通信速度、OSやアプリケーション等)とアクセス手順などについてあらかじめ通知しておく
株主総会運営に際しての法的・実務的な注意点
実際にハイブリッド型バーチャル株主総会を運営するにあたり、法的・実務的な視点での注意点をまとめてみました。
(1)株主の本人確認方法
会社法124条1項によると、「株主総会に出席し、議決権を行使できる株主は、基準日現在で議決権を有する株主として株主名簿に記載または記録された者に限られる」と定められていますが、それはバーチャル出席であっても条件は同じです。実務サイドでは、株主総会の当日に、リアル出席者とバーチャル出席者、双方に対して本人確認を実施しなければなりません。
●バーチャル出席者の「本人確認」方法
バーチャル出席者の本人確認をする際は、「議決権行使書面等」に固有のIDとパスワードを株主ごとに割り当てて送付し、株主は株主総会当日に、割当てられたIDとパスワードでログインすることで本人確認とする方法を採用することが妥当とされています。
●バーチャル出席者の「代理人」の場合の確認方法
リアル株主総会では、遠隔地や高齢者など株主総会の会場に足を運べない人の代わりに、「代理人」を立てるケースがあります。バーチャル出席を採用することにより、「株主総会の会場へ足を運べない人」の参加が可能となるため、代理人を立ててまでバーチャル出席をするケースは少ないと想定されています。しかし、バーチャル出席で代理人を立てる可能性もゼロではないため、先に「代理人の出席はリアル株主総会に限る」と制限を設けておくなどの対策が必要です。その場合は、招集通知などにおいて、あらかじめアナウンスしておくと良いでしょう。もし、企業の方で代理人のバーチャル出席を可とする場合は、リアル株主総会へ代理人出席した場合に、実施する本人確認に準じた取扱いをすることが望まれます。通常は、委任状と委任者本人確認書類を提出し、代理人本人の議決権行使書を提出するなどの書面でのやりとりが必要であるため、バーチャル代理人の場合も、メール添付など、何らかの方法で委任状のやりとりを要すると考えられます。
●なりすまし対策
リアル株主総会では、受付で議決権行使書面の確認を、株主の住所に送付された議決権行使書面の体裁であるかなど、受付にいる人間が目視で確認します。バーチャル出席の場合は、IDとパスワードのみでの確認となってしまうので、なりすましの対策は必須項目となります。バーチャル出席での本人確認は二段階認証を採用する、ブロックチェーンなどを活用するなどの対策を講じ、単純にログインできないような複雑さを導入することが妥当です。
(2)株主総会の出席と「事前の議決権行使」の効力の関係について
決まった時間に会場を訪れ。プログラム通りの進行に準じたアクションが起こせるリアル株主総会出席の株主とは違い、バーチャル出席株主の場合は、自分の空いた時間のタイミングでログインするというような急な決断による出席の可能性が、リアル出席株主と比べて相対的に高いと考えられています。
と、同時に、このように予定の流動的な出席株主については、途中退席の可能性も高いとも想定されています。バーチャル出席株主が「事前の議決権行使」を行っていた場合、例えば、ログインを以て出席とし、出席の時点で「事前の議決権行使」の効力が失われたものと扱ってしまうと、無効票が増える結果となり、株主の意思を正確に反映できない恐れがあります。このような観点から、バーチャル出席株主についての出席カウントと「事前の議決権行使」の効力については、株主の意思を尊重する形で、リアル株主総会の実務とは異なる取扱いも許容されると考えられています。
●出席カウントの実務はどうなるか?
バーチャル出席者に関しては、あらかじめ以下のような事項を招集通知などで、通知しておく必要があります。
①「審議に参加するための本人確認としてのログイン」を行うが、その時点では事前の議決権行使の効力は取消さずに維持する
②当日の採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り事前の議決権行使の効力を破棄する
③ログインしたものの採決に参加しなかった場合には、事前の議決権の行使の効力が維持される
これに加え、そもそも事前の議決権行使判断を変更する意思のない株主の場合には、出席型ログイン画面の他に参加(傍聴)型のライブ配信等の準備をするなどを用意しハイブリッド参加型バーチャル株主総会のスタイルで参加してもらうなどの工夫も必要となります。
(3)バーチャル出席株主からの質問・動議の取扱い方法
リアル株主総会での一般的な質問は、議長が挙手した株主を指名するスタイルが一般的です。その場合、挙手した株主が必ずしも発言できるわけではなく、また、議長の方も、株主が発言するまで質問の内容を把握することができないので、議案に関係のない質問が出てくることもままあります。
他方、バーチャル出席株主の場合は、議事運営の都合であらかじめ質問内容を記入して議長へ提出しておくことが、望ましいとされています。こうすることで、議長は質問内容を確認した上で、当該質問を取り上げるか否かを判断することが技術的に可能となり、より多くの株主にとって有意義な質問を取り上げて建設的な対話に資すると考えられています。しかし、事前に質問を受け付けられる状況は、現経営陣に対して敵対的な質問を取り上げないという恣意的な議事運営や、バーチャル出席株主による、同じ質問や動議をコピー&ペーストで複数回送りつけるなどの妨害行為などが想定されるため、これらについても対策が必要となります。
●バーチャル株主総会の質問・動議の具体的な取扱いについて
【質問の受け付け方とルール】
・1人が提出できる質問回数や文字数、送信制限(リアル株主総会の会場の質疑終了予定の時刻より一定程早く設定)などの事務処理上の制約や、個人的な情報が含まれる質問、個人的な攻撃などに繋がる不適切な内容の質問は取り上げないなどの「質問を取り上げる際の考え方」について運営ルールを定め、招集通知やホームページ上でアナウンスする
・バーチャル出席株主は、あらかじめ用意された専用のフォームに質問内容を記入し、企業側に送信する。受取った企業側は運営ルールに従い内容を確認し、議長の議事運営において質問を取り上げる企業が置かれている状況によっては、適正性・透明性を担保するための措置として、株主総会終了後、受取ったものの回答できなかった質問の概要をWeb上などで公開するなどで工夫することが考えられます。
【動議について】
株主の動議の提出にあたっては、提案株主に対し提案内容についての趣旨確認が必要となる場合や、提案理由についての説明を求めるケースが想定されます。しかし、議事進行中にバーチャル出席株主に対して、上記のことを実施することや、そのためのシステム的な環境を構築することは「会社の合理的な努力で対応可能な範囲」を越えてしまう恐れがあります。従って、動議については以下のような取扱いが考えられます。
●事前に招集通知などでバーチャル出席株主に対し「バーチャル出席者の動議については取り上げることが困難な場合があるため、動議を提出する可能性がある方は、リアル株主総会へご出席ください」といった案内を記載した上で、原則として「動議についてはリアル株主総会からのものを受け付ける」とルールづけておく
【動議の採決について】
基本的に株主総会当日に株主から動議が提出された場合、その都度議場の株主の採択を採る必要が生じる可能性があります。しかし招集通知に記載のない案件について、バーチャル出席者を含めた採決を可能とするシステムに整えるとしても「会社の合理的な努力で対応可能な範囲」を超えてしまうと想定されます。その対策として、以下のような取扱いが考えられます。
・株主に対して「当日、会場の出席者から動議提案がなされた場合など、招集通知に記載のない件の採決が必要になった場合には、バーチャル出席者は賛否の表明ができない場合があります。その場合、バーチャル出席者は事前に書面または電磁的方法により議決権を行使して、「当日出席しない株主の取扱いも踏まえ棄権又は欠席として取り扱うことになりますのであらかじめご了承ください」といった旨の案内を記載する
・個別の処理が必要となる動議等の採決にあたっては、バーチャル出席者は実質的動議については棄権、手動的動議については欠席として取り扱う、例えば、システム的に動議対応が可能であっても、逆にバーチャル出席株主から動議の濫用の恐れもあります。濫用的であると認められる場合は、取り上げないことも運営上の許容の範囲とみなされ、濫用の程度によって、株主総会の秩序を乱すと判断される場合には、リアル株主総会での「退場」と同等の扱いとなる「通信の強制途絶」を議長権限によって行うことも可能です。これらの措置に関しても、あらかじめ招集通知等で通知する必要があります。
(4)バーチャル出席株主の議決権行使の在り方
バーチャル出席株主に対しての議決権行使の在り方は、会社法298条1項3号又は4号の「事前の議決権行使としての電磁的方法による議決権行使」ではなく、「当日の議決権行使」として取扱うことが前提です。
●議決権行使についての取扱い方法
企業側は、インターネット等の手段を使ってバーチャル出席した株主が、株主総会当日に議決権を行使できるようにシステムを整える必要があります。バーチャル出席株主の議決権行使システムの検討にあたっては、書面や電磁的方法によって事前に議決権行使を行った株主が、株主総会当日にバーチャル出席した場合における「事前の議決権行使の効力の取扱い」について、上記(2)でも記したように「ログインをしても事前の議決権行使の効力は取消さずに維持する」方式を採用し、「当日の採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り議決権の効力を破棄する」などの取決めを整備しておくことが重要です。
●議決権行使結果に係る臨時報告書の記載について
株主総会終了後、企業は金融商品取引法第24条の5第4項及び、企業内容等の開示に関する内閣府令第19条第2項9号の2の規定に基づき、臨時報告書の提出が求められています。当該臨時報告書に記載すべき議決権の数については、前日までの事前行使や当日出席の大株主分の集計により可決要件を満たし、会社法に沿って決議が成立したことが明らかになった等の理由がある場合には、リアル出席株主の一部の議決権数を集計しない場合と同じくして、当日出席のバーチャル出席株主の議決権数を集計しない場合についても、その理由を開示することで足りる、と考えられています。
(5)招集通知への記載方法
ハイブリッド型バーチャル株主総会について、招集通知にその旨を記載する場合はどのように記載すると良いのでしょうか?前提として取締役が会社法298条1項に従って、株主総会の場所を決定した場合、会社法299条1項に基づいてこれを株主へ通知する必要があります。株主総会の議事録の記載事項を定める奏施行規則72条3項1号では「株主総会の場所」の記載方法として「当該場所に存しない株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む」とも記されています。ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の招集通知へ記載する場合は、この72条3項1号の条文を準用し、以下の旨を記すとよいとされています。
・リアル株主総会の開催場所
・株主総会の状況を動画配信するインターネットサイトのアドレスやインターネット等の手段を用いた議決権行使の具体的方法等
・株主がインターネット等の手段を用いて株主総会に出席し、審議に参加し、議決権を行使するための方法の明記
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【参照情報】
創業手帳
>>>株主総会も遠隔でweb会議!ハイブリッド型バーチャル株主総会の方法まとめ
経済産業省
>>>「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました