<スタートアップ時・シード期の資金調達法「J-KISS」【2】> 「J-KISS型新株予約権投資契約書」の内容と登記手続きの流れについて
「簡単に早くシンプルに」をコンセプトとした資金調達手法『J-KISS(日本版Keep It Simple Security)』は、起業のスタートアップ期やシード期にうってつけの手法として、事業者、投資家、双方から熱い視線を浴びています。実際に、J-KISSの構成は、どのようになっているのでしょうか?今回は、「J-KISS型新株予約権投資契約書」の基本構成と登記手続きについてまとめてみました。
J-KISS型新株予約権の基本構成
J-KISS型新株予約権の基本構成は、以下の通りとなっています。
- 投資契約書(本体)
- 発行要項(別紙1)
- 行使通知書(別紙2)
J-KISSの大きな特徴は、重要となる箇所がごく一部しかない点です。J-KISSのひな形を使って合意できた場合、発行会社と投資家の間で、契約交渉コストが非常に少なくなります。
●投資契約書(本体)
J-KISS投資契約書本体の内容は、第1章~第5章まであります。
構成は以下のようになっています。
【第1章 定義】
第1.1条(定義)
(1)会社法/(2)関係者/(3)クロージング/(4)参加上限額/(5)主要投資家/(6)新株予約権/(7)ストックオプション/(8)多数投資家(9)本株式等/(10)本行使通知/(11)本財務諸表等/(12)本シリーズ新株予約権/(13)本シリーズ投資家/(14)本新株予約権/(15)本転換/(16)本発行要項
【第2章 本新株予約権の割当て等】
第2.1条(本新株予約権の割当及び引受け)
第2.2条(クロージング)
第2.3条(登記手続)
第2.4条(本新株予約権の転換)
【第3章 本会社による表明保証】
第3.1条(本会社による表明保証)
(1)設立及び存続/(2)権限/(3)取得勧誘/(4)抵触の不存在/(5)転換対象株式の発行/(6)知的財産権/(7)訴訟/(8)反社会的勢力等/(9)開示
【第4章 本投資家による表明保証】
第4.1条(本投資家による表明保証)
(1)権限/(2)真正な取得/(3)投資経験/(4)反社会的勢力等
【第5章 その他の事項】
第5.1条(最恵待遇条項)
第5.2条(主要投資家の権利)(1)情報請求権/(2)優先引受権/(3)主要投資家としての権利
第5.3条(本新株予約権の譲渡)
第5.4条(支払)
第5.5条(費用の償還及び補償)
第5.6条(契約上の地位の移転)
第5.7条(準拠法及び管轄)
第5.8条(通知)
第5.9条(投資関連契約の締結)
第5.10条(分離可能性)
第5.11条(転換対象株式の数の調整)
第5.12条(協力義務)
第5.13条(各契約の独立及び変更等)
第5.14条(順位)
第5.15条(免責)
第5.16条(副本)
上記、項目記載の最後がサインページとなり、
「本契約の締結を証するため、本契約の各当事者は頭書の日付において下記のとおり証明また記名押印する」
本会社名と本投資家名を記す箇所が、設けられています。
●発行概要(別紙1)
発行概要では、J-KISS新株予約権の募集要項が、記されています。
ここでの募集要項は、以下のような項目となります。
1.発行会社名名称
2.新株予約権の数
3.払込金額
4.割当日・払込期日
5.新株予約権の内容
(1)新株予約権の目的である株式の種類及び数
(2)転換価格
(3)本新株予約権の行使に際して出資柄される財産の価額又はその算定方法
(4)本新株予約権を行使することができる期間
(5)本新株予約権の行使の条件
(6)株式を対価とする本新株予約権の取得条件
(7)金銭を対価とする本新株予約権の取得条項
(8)譲渡制限
(9)資本金及び資本準備金に関する事項
●行使通知書(別紙2)
行使通知書では、J-KISS新株予約権を行使するための、株式数、申込期日、行使日、払込金額、保有者の住所、名称などを、記入する欄があります。
J-KISS契約締結後から登記までの流れ
J-KISSでの登記手続きについては、投資契約書の第2章「本新株予約権の割当て等」の第2.3条で、以下のように記されています。
第2.3条(登記手続)
本会社は、本払込期日の後、速やかに引受新株予約権の発行について変更登記手続真正をするものとし、本払込期日から30営業日以内に、当該引受新株予約権の発行が、反映された本会社の現在事項全部証明書を本投資家に交付するものとする。
第2.3条に記されているものを解説すると、発行会社は投資家からの払込を確認後、速やかに新株予約権の発行についての登記を実施し、払込期日から30営業日以内に登記が反映されている登記簿を、投資家に交付する義務があります。登記には別途書類が必要となり、払込から14日以内に作成しないといけません。登記までの流れは、どのような手順となっているのでしょうか?
ここでは取締役会未設置会社では、以下のような手続きの流れとなっています。
【株主総会】→【契約締結】→【払込完了】→【登記完了】
(1)株主総会で決議
株主総会でJ-KISSに関する決議を実施します。
(2)株主総会議事録
株主総会でJ-KISSが決議されたら、議事録を作成する義務があります。
議事録は「別紙参照」として作成する方がよいとされています。
(3)契約締結
合意したのちに投資家と契約を締結します。
契約後に契約書第2章第2.3条に従い、登記手続きに入ります。
(4)払込完了
投資契約書に記されている払込期日までに払込が完了したら、通帳記帳を行い、通帳の表面と1ページ目、払込が記載されているページの三か所です。払込のページのコピーには、蛍光ペン等でマーキングをして、法務局の担当官へわかりやすくすると良いとされています。
(5)登記申請書作成
登記申請書には、以下の項目を正確に記入して、作成します
・会社法人番号
・商号
・本店
・登記の事由
・会社法第911条3項12号の定めに従い発行要項5.の(1)~(7)の内容を記載
・登録免許税
・必要な添付書類
(6)添付書類の準備
必要な添付書類は、以下の通りです
・株主総会議事録
・募集新株予約権の申込を証する書面
・払込があったことを証する書面
・割当て先及び数の決定を証する書面
・株式名簿
(7)原本還付請求・原本証明
原本還付請求と原本証明を、同時に行います。
添付書類を準備し、原本還付請求するものをコピーし、そのコピーを原本証明します。
原本証明する書類の最終ページの余白、又は裏面に実印を捺印します。
書類が二枚になる場合は、左側を2か所ホチキス綴じし、書類を開いた綴じ目は割り印をします。
(8)法務局へ提出
準備した書類を、管轄の法務局へ提出します。
提出場所は、商業・法人登記窓口で「変更登記申請」であることを告げて、提出します。
書類に不備がある場合は、その場で修正箇所を教えてもらえる時もありますが、後日電話連絡の場合もあります。
その時の窓口次第となりますが、修正依頼が来たら速やかに応じて下さい。
J-KISSの活用方法はセミナーで!
J-KISSの書面や事務手続きについて解説いたしましたが、例えば、バリュエーションの繰り延べやA種優先株式の取得など、資金調達にうまく活用するコツを学ぶには、専門家からWebセミナーで学ぶことがお薦めです。旬のJ-KISSをいち早く取り入れ、スタートアップ期を成功させましょう。
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【参考サイト】
KINCHAKU
>>>J-KISS型新株予約権の登記手続きについて
note
>>>J-KISSを基礎から理解する(逐条解説①)~投資契約本体