<次世代の交通サービス「MaaS」が描く未来のビジョン【3】> 世界各国のMaaS具体例と日本の取組み事例
日本では、ようやく政府主導の取組みが推奨されたばかりのMaaS。MaaS先進国であるフィンランドやドイツでは、早くもMaaSのプラットフォームが構築され、実用に至っています。世界各国のMaaS具体例と、現在、日本の企業が取組みを始めたMaaS事例などを、ご紹介します。
MaaS先進国で実用されているMaaS具体例
MaaSの先進国と言われるフィンランドやドイツでは、すでに実用しているMaaSがあります。世界で実施されているMaaSの実例を、ご紹介します。
■フィンランド:Whim(ウィム)
Whim(ウィム)は、MaaS先進国であるフィンランドで運用されている、官民連携スタイルのMaaS事例です。MaaSGlobal社が運営し、フィンランドのヘルシンキ、イギリスのウェストミッドエランド、ベルギーのアントワープなどで、展開しています。
【特徴】
・各種公共交通(電車・バス・タクシー・シェアサイクル・レンタカー)のモビリティサービスの予約、決済を一括できるスマホアプリ
・3種類の料金形態がある
・MaaS3レベルの完成度と言われている
・日本を含む世界での展開を視野に入れている
Whimの大きな特徴は、3つの料金形態にあります。
①月額無料の「Whim To Go」
各種チケットの予約と決済がアプリで一括行えるが乗り物は有料
②月額数千円の「Whim Urban」
対象エリアの公共交通が乗り放題となる上に、5kmまでは最大10ユーロでタクシーを、一日49ユーロの固定料金でレンタカーを、1回30分までは無料でシティバイクを利用できる
③月額数万円の「Whim Unlimited」
公共交通が、乗り放題+5kmまでのタクシーと、レンタカーが無料となる
Whimの実績としては、移動手段として自家用車を選択するWhimユーザーの割合が40%から20%減少し、公共交通利用者が40%から74%へ増加したと報告があります。一方で多くのユーザーが、無料の「To Go」を利用しており、有料ユーザーは、まだ多くないというのが現状です。
■フィンランド:kyyti(クーティ)
kyyti(クーティ)は、Whimと同じフィンランドのkyyti Groupが開発した、MaaSのプラットフォームです。公共交通の利用が困難な高齢者、障がい者、在宅介護サービス事業者を対象とした一般ユーザーの承認制で乗り合いをする、デマンドレスポンシトランスポート(DRT)と、AIディープラーニングの活用によるモビリティデータで、交通システムを最適化する機能を活用した官民連携のMaaSシステムとなります。
【特徴】
・専用アプリで、ひとつのプラットフォームに統合されたルートプランニングと、すべてのモビリティモードの支払いと発券が可能となる
・公共交通機関、レンタカー、フェリー、レンタサイクルといった移動手段だけでなく、ユーザーごとの状況に合わせたトラベルスケジュールの構築や、予約、決済ができる
kyytiは、フィンランドだけにとどまらず、スイスの大手公共交通企業「PostAuto」や、アメリカの「Demand Trance」と提携して、MaaSのレベルアップと、需要に応じたトランジットソリューションを、開発・実装している最中とのことです。
■ドイツ:moovel(ムーベル)
moovel(ムーベル)は、ドイツの大手自動車メーカーダイムラーが率いる「moovel Group GmbH」が提供している、官民連携のMaaSプラットフォームです。
【特徴】
・移動ルートの検索、予約、決済をApple payやGoogle payなどの支払いオプションの設定ができる
・NFC、Bluetooth、QRコード、バーコードなど、ほぼすべての非接触技術に対応している
・リアルタイムでの交通状況が把握できるため、状況を事前にサーチ、ルートを再検索できる
moovelは今後、カーシェアリングサービスの「Car2go」や、タクシー配車サービス「mytaxi」も、プラットフォームへ取り込み、都市交通の更なる最適化を図る見込みとのことです。
■ドイツ:Qixxit(キクシット)
Qixxit(キクシット)は、民営化したドイツ鉄道が力を入れているMaaS事業です。MaaSの概念が生まれる2009年から、「DBNavigator」というアプリをスタートさせていました。運用を続けるうちに、鉄道に限らず、カーシェアリングやレンタサイクルを対象とした機能やエリアを拡大し、2013年に「Qixxit」という名前でリリースされました。moovelやkyytiの官民連携ではなく、民間独自のMaaSシステムです。
【特徴】
・ドイツ鉄道以外の長距離・中距離路線、陸路、飛行機の検索予約や決済が可能
・乗り合いタクシーなどのデマンド交通にも対応している
ドイツ鉄道では、さらなるMaaSの進化を目指し、最終的には、駅から最終目的地までのラストマイルの移動手段として、DRT(Demand Response Transportation)で補完することを目的としており、Qixxitに代わる「ioki」の開発に取り組んでいます。
■スウェーデン:UBIGO(ユビゴ)
UBIGO(ユビゴ)は、スウェーデンで2013年に成功した、MaaSパイロットプロジェクトから生まれたプラットフォームです。首都ストックホルムを中心に展開しており、民間独自のサービスとなります。
【特徴】
・SL社GA公共交通機関が運営する、鉄道、地下鉄、トラム、バス、水上バスのすべての予約、決済を一つのアプリで実行できる
・SL社のフルレンジ10日間乗り放題
・MoveAbout社とHertzが提供するレンタカーとカーシェアもセットにできるバンドリングや、サブスクリプション契約も可能
展開地域が、スウェーデンの首都ストックホルム中心という範囲の狭さながらも、MaaSとしての完成度は高く、そのレベルはMaaS3とはWhimに匹敵するクオリティとのことです。
■アメリカ・ロサンゼルス市:GoLA(ゴーエルエー)
1980年代頃のロサンゼルスは、交通の便がよくなく、基幹公共交通というものが、ほとんどありませんでした。のちに、行政が交通網整備に力を入れたことにより、地下鉄やバス、ラピッド・トランジットなどが整備され、タクシー配車サービスやシェアサイクルが普及すると、アメリカ随一のハブ都市へ発展しました。そして、2016年に官主導でゼロックスと共同開発し、GoLA(ゴーエルエー)というMaaSの行政サービスがスタートしたのです。
【特徴】
・GoLAアプリに現在地と目的地を指定すると、時間・費用・エコの順番で複数の推奨ルートが表示される
・ライトレールトランジットやバス・ラピッド・トランジットや空港シャトルバス、配車サービスなどの予約と決済ができる
GoLAは、官主導のMaaSですが、網目のようなロサンゼルスの交通網を網羅しているだけあり、便利に活用されているようです。
日本の企業が取組んでいるMaaSの具体例
日本国内でも、MaaSに取組んでいる企業があります。日本のMaaSは、どこまで進んでいるのか?その例をご紹介します。
【JR東日本:モビリティ・リンケージ・プラットフォーム】
JRでは、2018年7月に発表した「変革2027」という10か年中期経営ビジョンの中で、配車サービスや、交通系ICカード「Suica」を、多面的に活用した移動のための情報・購入・決済を、オールインワンで実施する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」を推進する方針を、明らかにしました。実際に、「モバイルSuica」と「びゅうカード」を連携させた自動決済システムや、駅構内や駅ビルのショップモールでのキャッシュレス化などを拡大中です。
MaaSに関しては、自治体や鉄道各社と連携し、国内外の観光客が、駅や空港から移動する際に、スマートフォンで検索・予約・決済を一括で行い、目的地までシームレスに移動できる「観光MaaS」の提供ほか、新たな交通手段を開発中です。観光型MaaSには、東京東急電鉄(東急)と「静岡デスティネーションキャンペーン」に合わせ、伊豆エリアで実証実験を開始し、小田急電鉄ともMaaS分野で連携することを検討しているとのことです。さらに、「モビリティ変革コンソーシアム」でも、Suica認証による交通事業者・デマンド交通・商業施設の連携に関する、MaaSの実証実験が実施されています。
【トヨタ自動車×西日本鉄道:my route】
大手自動車メーカートヨタ自動車と西日本鉄道(西鉄)では2018年11月から、バス、鉄道、地下鉄などの公共交通をはじめ、タクシー、レンタカー、自転車、徒歩など、さまざまな移動手段を組み合わせて検索、予約、決済ができる「マルチモーダルモビリティサービス」の実証実験を福岡市で実施しました。
トヨタはアプリと決済プラットフォームの開発・運営、レンタカーの情報提供を担い、西鉄では自社バスの位置情報や、西鉄グループ内の店舗、イベント情報の提供などを行うとともに、アプリ内限定での福岡市内フリー乗車券のデジタル版を販売するなどサービスの提供を担っています。
実証実験は2019年3月末までとのことでしたが、好評につき2019年内いっぱいまで延長しているとのことです。
【小田急電鉄/小田急MaaS】
小田急では、ヴァル研究所、タイムズ24、ドコモ・バイクシェア・WHILLの4社と連携した「小田急MaaS」の実現に向けて、システムの開発やデータ連携サービスの検討などを進めています。小田急MaaSは、ヴァル研究所の検索エンジンとアプリを連携し、小田急グループの鉄道やバスのデータに加え、タイムズ24が持つカーシェアリングサービスデータの表示、ドコモ・バイクシェアのサイクルポートデータの表示を予定しています。
小田急では、「観光型MaaS」と「郊外型MaaS」「MaaS×生活サービス」と多方面でのMaaSに取組んでおり、2019年に10月にはJR東日本と連携した、「立川駅周辺エリアのおでかけをサポートする」MaaS計画を発表しました。新宿、新百合ヶ丘エリアでは、「郊外型MaaS」と「MaaS×生活サービス」を意識したMaaSアプリ「EMot」をリリースしています。MaaSを意識した一歩先の取組みとしては、公共交通機関を降りたあとのラストワンマイル移動手段として、WHILLのパーソナルMobilityと連衡を行い、箱根エリアで実証実験を行う予定です。
日本国内でも、大手鉄道会社、大手自動車メーカー、交通系サービス企業が、MaaS実用に向けて動き出しています。MaaSをビジネスに活かすには、国内外のMaaSの実例を知っておく必要があります。ご興味があるようでしたら、MaaS関連のセミナーを受講し、最新の次世代交通サービスの事情通となりましょう!
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【参照情報】
自動運転LAB
>>>MaaS(マース)の基礎知識と完成像を徹底解説
SmartDrive magazine
>>>ここまで進んでいる!MaaSの海外事例まとめ
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>>>サービス会社化する自動車メーカー。ダイムラーはアプリで都市の移動を変える
日本総研
>>>【次世代交通】自動走行ラスト参るで町をよみがえらせる(第6回)~ラストマイルモビリティとMaaS(2)~
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PRTIMES
>>>10月30日、MaaSアプリ「EMot(エモット)」サービスイン