パワハラ防止法案とは何か?パワハラの定義や労災の取扱いについて

厚生労働省によると、職場において嫌がらせやいじめによる相談件数は、年々増加傾向にあり、深刻な社会問題化としています。パワハラ問題は、労働者個人の心身に影響を及ぼすばかりか、休職や退職に追い込まれ、辞めてもなお、日常生活に暗い影を落とすケースもあります。パワハラ問題に向き合うためには、まずパワーハラスメントとは何かを知る必要があります。この度法案が成立したパワハラ防止法案と合わせ、パワーハラスメントの定義、労災での取扱いなどについて紐解いてゆきます。

 

パワーハラスメント防止法案(パワハラ防止法案)とは?

2019年5月29日、参議院本会議にて「パワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける関連法」が可決しました。パワハラ問題は、社会的にも認知度が高い問題でしたが、これまで明確な定義がありませんでしたが、パワハラ防止法案が成立したことにより、企業にはパワハラ対策が義務づけられました。このパワハラ防止法案は、大企業で2020年4月、中小企業は2022年4月から施行されます。罰則規定などはこれから議論される方向ですが、厚生労働省では、各企業にパワハラ防止法案への理解を深めてもらうよう、ポータルサイト「あかるい職場応援」やリーフレットなどで、パワハラの予防、解決に向けた情報発信を実施しています。

 

パワーハラスメントの定義について

パワーハラスメントの定義は、平成23年度に実施された「職場いじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」にて、以下のように決められました。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」

この定義を踏まえ、以下のように解釈がされています。

・「職場内での優位性」について
一般的に「パワーハラスメント」という言葉は、職場内での上司から部下、先輩、後輩間、同僚間でのいじめ、嫌がらせを指して使われていますが、この場合での「職場内での優位性」は、「職務上の地位」や「年功序列」に限らず、職務の経験、人間関係、専門知識など様々な優位性が含まれることとなります。

・「業務上の適正な範囲」
「職場での指示や指導に不満を持つ」ということは誰しも経験のあることですが、その指示や指導が、業務上必要であった、業務上、適正な範囲で行われているなどの場合は、パワーハラスメントに該当しません。職場にてパワーハラスメント対策を実施する場合は、一方的に不満の声を拾うのではなく、上司の指導は適正であったか、各職場で何が業務に適正で何が適正でないのかを、明確にする必要があります。

実際にパワーハラスメント事案が発生した場合、それがパワハラであるかどうかを判断するためには、定義に当てはめるだけでなく、パワハラ行為が行われた状況、パワハラ行為が継続的であったかなど事実関係の把握と、各職場での共通認識を要することとなります。

 

パワーハラスメント「6つの行為類型」とは?

パワーハラスメントの行為は、基本的に6つの典型的な「行為類型」に分類することが可能です。ただしこれらの行為類型は、職場で発生するパワーハラスメントすべての行為について網羅したものではないので、留意してください。

(1)身体的な攻撃:暴行/障害
殴る、蹴る、胸ぐらをつかむなど、暴力行為のあるパワハラを指します。

(2)精神的な攻撃:脅迫/名誉棄損/侮辱/暴言
言葉による人格否定、一方的な暴言、仕事の強要や過分な叱咤など、精神を攻撃するパワハラを指します。

(3)人間関係からの切り離し:隔離・仲間はずし・無視
職場内のコミュニティから切り離して孤立させる、仕事を教えない、プロジェクトから外すなどのパワハラを指します。

(4)過大な要求:業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことを強制する
周囲と比べて仕事量やノルマが多い、仕事以外の要件で忙殺される、仕事の妨害などのパワハラを指します。

(5)過小な要求:仕事を与えない/閑職ポストへ追いやる
経験や能力にかけ離れたレベルの仕事を課す、仕事のない部署へ異動させる、キャリアアップの機会を奪うなどのパワハラを指します。

(6)個の侵害:プライベートに干渉する/社内外で一人を監視する
過度にプライベートに立ち入り、社外での行動などに干渉する、社内で個人の持ち物を勝手にチェックするなどのパワハラを指します。

※4)、5)に関しては会社によって判断が難しいケースもあるため、一概にはパワハラと言えないこともあります。

 

パワーハラスメントの労災認定基準とは

・「パワハラ」で労災は認められるのか?労災認定されるケースとは?
暴力行為によるパワハラでケガを負った場合や、精神的ダメージを伴うパワハラでうつ病などを発症した場合、「労災」は認められるのでしょうか?

そもそも「労災」とは、工場や現場などでの作業中にケガを負った、劣悪な職場環境が起因で病気になった、などの場合に認められるイメージがありますが、時代の流れとともに、暴言や暴力、嫌がらせによるケガや疾患でも労災が認められるようになりました。とはいえ、パワハラが原因でケガや病気となっても、現況では、パワハラ行為に対しての法整備がされておらず、また、会社の方からすんなりと労災と認められることはほとんどありません。

パワハラによってケガや病気となった時は、労働者の方から働きかけなければ、労災とは認められない流れとなっています。パワハラによる労災認定には3つの要件があり、それに当てはまれば労災と認定される可能性があります。

(1)精神障害を発症している
うつ病、適応障害、心因反応、睡眠障害など、精神的な被害で発症した精神障害は、外部からのストレスが個人の対応力のキャパを越えてしまった時に、発症すると言われています。「外部からのストレス」は、仕事でもプライベートでも起こりうることであり、性格的なもの、既往症なども関係するため、パワハラによる発症かどうかを判断するには、医師の診察を受け、医学的見地から慎重に判断してもらうことが重要です。

(2)発症前概ね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められる
「心理的負荷」による労災認定基準は、1999年作成された「心理的負荷評価表」に基づいて審査されます。発病前の6か月、職場で起きた出来事を評価表に記入して、ストレスの強い順に3段階評価するものです。「パワハラや職場のいじめ」はレベル2の評価でしたが、2009年に基準が見直され、「パワハラや職場いじめ」はレベル3に設定されました。これにより、パワハラや職場のいじめによる精神疾患が、労災として認められやすくなりましたが、最終的に「強い心理負荷が認められるかどうか」は、労働基準監督署の調査に基づき判断されます。

(3)発病の原因は職場以外の心理的負荷ではない
強い心理的負荷が原因で精神障害を発症したとしても、その要因が職場ではなく私生活上だと判断されると労災認定されません。心理的負荷評価表には「職場」と「職場以外」の両方あるので、最終的な判断は労働基準監督署の調査によって判断されます。

・パワハラで労災認定を受けるには申請書を提出する
労災認定を受けて労災保険の給付を受けるためには、申請書を作成し労働基準監督署へ提出する必要があります。申請方法は以下の通りです。

(1)本人または家族が、労働基準監督署で「労働者労働災害保険請求書(5号7号8号三種類有)」を取得します。
(2)医師から、治療日数と医師の証明印が入った診断書を交付してもらう
(3)労働者労働災害保険請求書に必要事項を記入し、7号8号用紙を労働基準監督署へ提出。5号を病院へ提出します。

書類には会社の印を押す箇所もありますが、会社サイドが渋るケースもあります。会社の欄は空欄でも、申請自体は受理してもらえます。

 

パワハラ防止法案はまだまだこれからの法案であり、施行にもまだ余裕があります。2020年の施行までに、まずはセミナーなどでパワハラ防止法案労災などについて、学んでみませんか?

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【参照情報】
厚生労働省
職場のパワーハラスメントについて
パワーハラスメント対策導入マニュアル

労働問題弁護士ナビ
パワハラをされた人が労災認定を得るための条件と全手順